既存の技術の延長からは省エネルギー技術などに限界はあるかもしれないが、あらためて独創的な資源節約的技術を生み出すような組織や研究体制が必要とされるだろうこれまで多くの企業は、プロセス・イノベーションによって達成された生産性の上昇を製品価格の低下に結び付けてシェアの拡大をとってきたすでにみたようにこうした戦略は、変動為替相場制の下では円高にともなう価格競争力の平準化によって未達成に終わる可能性がある。
日本企業の平均としては、せっかくのコスト・ダウンの成果を為替レー卜の変化によって相殺されてしまう誤謬」の典型的な一例といえよう。
こうしたシェア拡大の戦略に代えて、革新的な技術に対してはより高い利潤率を志向する戦略に切り換えることを提起してみたい。
すなわちプロセス・イノベーションにより達成したコスト・ダウンがあるとすればそれを価格低下に結び付けないで、従来価格を維持することにより利潤率を高める戦略を選ぶのである。
言い換えれば、こうした価格戦略がとれるような独自性のある開発戦略を目指すのである。
昨今の日本企業の経営者の多くがおそらく頭を悩ませているであろう「コスト・ダウンと円高の追いかけっこ」のような状況、すなわち研究開発に対する報酬を為替レートの変化に吸収されてしまうような状況を回避することができる。
勿論こうした戦略は、生産性上昇の成果を消費者がいちはやく享受できる利益を損なうことになる順番の問題であり、技術革新の開発者に帰属した所得は、次の段階では労働者の報酬または投資支出などの形で広〈国民の所得上昇に寄与することになる。
おそらく議論すべきは、中期的な成長を担う技術革新のインセンティブが、競争を徹底することによって生まれやすくなるのか、利潤率を高める戦略をとることによって生まれやすくなるのか、ということであろう。
技術革新のインセンティプ自体が十分研究された分野とはいえず、現時点でこの間題に決着をつけることはできないが、今後検討されるべき課題であろう。
では、資本の固定性ゆえに円高下でも過剰設備をかかえ輸出をおこなうために、貿易黒字が減少しない現象を説明した。
またこうした固定的な企業設備は、企業に製品のシェア拡大重視の戦略をとらせる一因である。
さらに日本の大企業では、企業内の固定的要素は資本だけにとどまらない。
労働力も資本以上に固定的な要素である。
企業は、こうした固定的な生産要素を多く抱えるがゆえに、頻繁に変動する為替レートに即応できない側面をもった。
ここでは、こうした企業がかかえる固定的要素がどのように変わっていくか、面から述べてみたい。
おそらく貿易財産業の中で資本の固定性が高い産業は、鉄鋼、化学、紙・パルプなどの素材型産業であろう。
例えば高炉メーカーなどは、生産を変動させることのできる幅が限られており、一定以上の生産水準を維持できなければ、高炉自体を休止しなくてはならない。
このような装置産業の場合為替レートの変動に合わせて設備規模を変化させることには多大な時間とコストを要する。
したがって製品価格が変動する状況の下において、設備規模の小さい電炉メーカーが比較的有利になるのはある意味で自然なことかもしれない。
円高の進行とともに装置型産業の規模は、徐々に縮小していくものと思われる。
そうした流れの中にあって、業容を維持していくためには、一連の工程の中で最も国際競争力の強い部分を見つけ出し、中間製品を供給する工夫をし、独自の最終製品の開発に努めることであろう。
また長期的には省資源型の製品や工程が評価されるとみられ、こうした分野での開発をこれまでもそうであったが、怠らないことではないだろうか。
製品ではなぐ競争力のある中間製品を供給するという面では、自動車や電気機械産業などの加工組立型産業は素材型産業よりもはるかに有利であろう。
このように今後は原材料から最終製品までの全一つの固定的な設備と考えることなく、それをいくつかの工程や中間製品に分割し、為替レートの変動に対応した生産体制をとることが望まれる。
工程を大企業にとっては、労働力も固定的な要素である。
したがっての分析を適用すると、労働の固定性は円高下での貿易黒字を発生させる要因となる。
勿論貿易黒字の削減のために、一挙に固定的な雇用を流動化させ、ミスマッチによる失業者を大量に発生させることは本末転倒である。
雇一用の固定性の解消はタイミングをはかつておこなわれるべきであろう。
終身雇用と呼ばれる場合、通常は一つの企業内で三O年前後働き続けることを意味している。
高齢化が進展した現在、退職後さらに一O年近く働き続けることが可能になっている。
このような環境の変化にもかかわらず、企業側は労働者の定着度を減らさざるをえなくなり、一方労働者側は、中・高年齢層に対する求職の少なさゆえに、転職に踏み切れないという問題が生じている。
こうした問題に対処する一つの考え方は、終身雇用的な就業形態を二回経験するということであろう。
具体的には、新卒で入社してから一五~二O年程度は一つの会社で働き、その後そこでの経験を生かし、かつ新たな技量を積むことによって新しい職場で再び一五|二O年程度働くという考え方である。
新卒後一五~二O年というのは、三O代後半から四O代前半であり、転職に伴う新たな技量の修得が五O代での転職よりも容易であると思われる。
現在の日本では、こうした人生での中間段階での転職の機会が少ない。
勿論転職が容易でない背景には、退職金制度、年金制度、福利厚生などの問題がある。
現在はこうした制度が長く勤続すればするほど有利になるように仕組まれているが、今後はこうした制度を見直し、三五|四O歳程度の段階での転職市場が厚みをもつように工夫してはどうだろ、フか。
以上のように企業、労働者双方が、為替レートの変動に柔軟に対処できる体制や制度的枠組を工夫することが、円高、経常黒字、景気低迷などの悪循環に陥らない方策であろう。
これまでは変動する為替レートを前提として、実体経済、特に企業がどのような対応をしていけばよいかということについて述べてきた。
常に変動が許容されている為替相場制度の方に変えるべき点はないのであろうか。
国際通貨制度をどうするかという問題は、必ずしも実体経済側の判断だけで決められる問題ではない。
すなわち、国際的な実物取引よりも時間当たりの取引額がはるかに巨額となる資本移動をどうするかという問題があり、その意味で本書が当初に課した枠組を超える問題である。
変動為替相場制度が果たして望ましい為替相場制度であるかどうかという議論は、変動相場制移行以来常になされてきた議論であった。
この二O年にわたる変動相場制の経験を振り返ると、変動相場制の役割を支持するエピソードも数多くある。
例えば石油危機のような園内経済にも対外バランスにも大きなショックを与える出来事が起こったとき、もし金融政策を固定レートの維持に振り向けなければならなかったとしたら、スタグフレーションは当時実際に経験したものよりもさらに深刻なものとなっていただろう。
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